スペシャル

「バジリスク ~桜花忍法帖~」リレーインタビュー 第3回
音響監督 横田知加子

—本作の最初の印象はいかがでしたか?
横田西村(純二)監督と別の作品でご一緒したときに、こんな作品があると言われて原作小説を読み始めたんですが、最初は「どうやって映像化するのだろう?」と少し戸惑ってしまって。多少歴史の知識があるとはいえ、なかなか忍術の想像がつかず、これを音にするにはどうすればいいのかと思いました。

—どのように音関連の構想を練られていったのでしょうか?
横田江戸時代を舞台にした群像劇であるというところから、現代劇とは違った日常の音や里の中の風景を厚みのある音で表現していきたいと考えました。そう考えたときに、音響効果はしっかり厚みのある音を付けてくださる山谷(尚人)さんにお願いしたいと思ったんです。同時に、監督とは音楽を多めにつけたいと話していました。といっても、オーケストラの音楽で映像を盛り上げていくという形ではなく、効果音のようにずっとどこかで流れていて、「このときの音楽が実はここに繋がっていく」という構成にしようということでした。

—山谷さんにはどんなお願いをしたのでしょうか?
横田特に細かいお願いはしていないですね。日常の音と忍術のような特殊な音のメリハリ感はほしいですという話をさせていただいたくらいです。

—音楽の坂部剛さんにはどんな構想を伝えられたのでしょうか?
横田坂部さんはもともと前作『甲賀忍法帖』がお好きだと伺いまして。シリーズの世界観をご存じですし、今回のシナリオもすべてご覧になり、ご自身で内容を解釈されていたので、細かくこうしてほしいというよりは、ざっくりとした構想をお伝えしただけでした。時代劇ではあるけれど、あまり和風和風した雰囲気ではなくわりとさっぱりしたものにしてほしいと。劇画調でややこってりしている作風なので、曲はスタイリッシュにしたかったんです。

—音楽メニューには使用されるシチュエーションなどがかなり細かく書かれていますね。
横田これは音響監督さんによってやり方が全然違いますが、私の場合はタイトルを決めて、曲の雰囲気とこういうシーンでこんなふうに掛けたいというところまで書いています。そこに打ち合わせで気付いたことなどを書き加えていって、1クールだいたい40曲、2クールだと60曲ぶんぐらいを作成しています。これに対して坂部さんから、たとえば「暗い曲ですか? 明るい曲ですか?」という質問をいただくこともあって、そういった打ち合わせを重ねながら曲を作っていただきました。坂部さんから上がってくる曲はどれも素晴らしいものばかりなので、いつも監督と「これいいですね!」と話しています。

—声優陣についても伺いたいと思います。まず、八郎についてはどのようなディレクションをされているのでしょうか?
横田八郎は棟梁として本心をずっと隠しながら過ごしてきた、ひたすら感情を抑えている男の子です。第7話ぐらいでもまだ感情を抑えている状況ですし、この先もその部分は大きく変わらないので、國立(幸)さんにも畠中(祐)さんにもなるべく抑えた芝居をお願いしています。

—響についてはいかがでしょうか?
横田響は八郎と正反対ですね。特に幼少の頃は思ったことをすぐに口に出すような、喜怒哀楽がはっきりしている女の子なので、そのわかりやすさは出してもらうようにしています。ただ、國立さんと水瀬(いのり)さんは、お二人が作ってきた芝居ほぼそのままですね。畠中さんは、成長した八郎として途中から参加されましたし、何よりセリフも少ないので、なるべくこちらからもフォローを入れるようにしています。抑えつつも暗くなりすぎず、棟梁としてのしっかりした部分を出してほしいというお願いをしました。

—西村監督から声優陣へのオーダーなどはあるのでしょうか?
横田そんなに細かいものはないですね。「もう少し明るく」とか、その程度です。特にメインの10キャラクターはオーディションを経ているので、そこでだいたいの方向性は決まっていましたから。

—オーディションで八郎役と響役に求められたものはなんだったのでしょうか?。
横田八郎はあまり声が細くなく、劇画のような力強いタッチにも合う声優さんというイメージでした。響は里の中で大事に大事に育てられたお姫様のような雰囲気とあどけなさがありつつも、芯はしっかりしている女の子というイメージを共有していました。

—本作はベテランの声優陣がたくさん参加されているのも特徴です。
横田メインの10キャラクターは監督と相談しながらでしたが、それ以外のキャラクターについては私のほうで自由にお声がけさせていただいています。特に成尋衆は、誰か一人しか出てこなくても絶対に勝てないくらい、声に力のある声優さんを呼びたいとお願いしました。

—確かに、成尋衆は誰がラスボスになってもおかしくないくらいの風格があります。
横田堀江(由衣)さんについては西村監督と『DOG DAYS’』 『DOG DAYS”』でご一緒したこともあって、そこでお姫様役を演じられた堀江さんに今度は敵役をやってみてほしいですよねということで、お願いすることになりました。土師(孝也)さんは別に厳しい方ではないんですが、現場をしっかり引き締めてくださるので、そういうところでも風格を感じますね。

—これまでの話数で印象的だったエピソードやキャラクターについても教えていただけますか?
横田甲賀五宝連の草薙一馬ですね。それこそ山谷さんは「この人、ものすごく活躍しそうなキャラだよね」とおっしゃっていたんですが、第3話で……という(笑)。もともと、シナリオを読んだときに第3話までは一馬に物語を引っ張ってもらいたいなと考えていたんです。声優さんも主役級の人にお願いしたいと思い、桐本拓哉さんという主に吹き替えでご活躍されている声優さんにオファーさせていただきました。

—このほか、声優陣とのやりとりで印象的だったものはありますか?
横田徳川忠長役の岡野(友佑)さんですね。実は、彼はデビューしてまだ2年の声優さんで、「アニメでこんなに喋ったことないです」というぐらいのキャリアなんです。とても真面目で忠長も違和感なく演じてくださるんですが、どうしてもアドリブや細かいニュアンスの付け方で戸惑ってしまうところがあるんですね。特に、第1話で刀を振り上げるシーンはとても苦労されている様子でした。そこで、ちょうど雨が降っていて私が傘を持っていたので、アフレコブースで実際に傘を使って声の出し方を練習してもらったんです。そしたらすぐにできて、「よかったね~」ということがありました(笑)。

—では、最後に今後の見どころについておしえていただけますでしょうか。
横田八郎と響が大人になり、主要キャラクターの対立軸も明確になって、これからますますお話が盛り上がっていきます。中盤以降はバトルのスケールも大きくなり、各キャラクターの過去のエピソードなども出てきて、より物語に深みが出てきますが、音の部分でも物語に負けないよう頑張っていますので、ぜひ音にも注目していただけたら嬉しいです。この作品は人間関係や心情の描き方がとても緻密で複雑なので、お芝居や音、音楽という部分でわかりやく説明できるような演出を心がけていけたらなと思います。

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