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「バジリスク ~桜花忍法帖~」リレーインタビュー第10回
原作 山田正紀

―『桜花忍法帖 バジリスク新章』を書くことになった経緯を教えていただけますか?
山田講談社から依頼をいただきました。もともと高校生のときから『甲賀忍法帖』のファンで、自分でもそういった作品が書いてみたくて『神君忍法帖』という時代小説を2007年に発表したことがあったのですが、まさか『甲賀忍法帖』の続編を書けることになるとは思っていませんでしたので、お話をいただいたときは大変なことになったと思いました。大天才の山田風太郎さんが脂の乗りきっている30代のときに書かれた作品なので、その続編を60歳になる僕が書いたら失敗するのではないか、という危惧も最初にありました。でも、失敗しても傷になるほどの作家ではないですし(笑)、依頼をいただけたことは名誉なことなので一生懸命に頑張ろうという気持ちでした。

―高校生の頃から好きだったということですが、どういったところが魅力だと感じたのでしょうか?
山田最初に読んだときは扇情的な表現も多いところが刺激的だったんですが、何度も読み返すうち、高校生だった自分はあの虚無感にたまらなく惹かれました。

—続編としてはどのような作品を目指しましたか?
山田まず、「面白いものを書く」というのが僕自身の最大のテーマではあります。いつも「人は何を面白がるのか」ということを考えているんです。僕が面白いと思うものを、他人も面白いと思うとは限りませんが、かといって僕が面白くないと思うものは絶対に他人も面白がりません。誰が読んでも面白い小説を書くことは不可能ではありますが、人々が感じるいろいろな面白さの共通項を書ければ、という思いがありました。ただ、「瞳術を取り入れてほしい」ということでしたので、そこを軸に組み立てるのは少し苦労しました。それと、『甲賀忍法帖』は忍びたちが次々と滅んでいく虚無的な部分がある一方で、甲賀と伊賀の棟梁が描く純愛というピュアな面が混濁した作品でもあります。そのピュアな部分をどう表現しようかは思案のしどころでした。

—時代小説を書くという点では苦労されましたか?
山田時代劇は好きでしたのでそれほど苦労は感じませんでした。それに、忍法帖ものの場合、史実どおり忠実に書くということはできないので、破天荒なところを目指してもいました。史料の使い方に関しても、あくまで発想の足がかりとすることが大切だと思っています。今日泊亜蘭さんという先輩作家から教えていただいたこととして、どんな作家も間違える、間違えることを恐れてはいけない、ということもありました。『桜花忍法帖』に関して言えば、忠長や家光といった実在の人物たちを足場にしていますので、そこは忠実に書いていますが、そのレンジ(=幅)の中でどれだけ発想を生かすかが大切だと思っていました。

—キャラクターメイキングという点で意識されたことも教えていただけますか?
山田僕は少年が青年になっていく話が好きで、そういう小説を書いてみたいとは思っていましたが、『甲賀忍法帖』では、前の世代の忍びたちの生き死といった年月がしっかり設定されていたので、その中へ当てはめていくのはなかなか難しかった覚えがあります。でも、『桜花忍法帖』の登場人物は作家のコマであって、ストーリーを作るうえで効率よく動かしていくことが大事でした。そういう意味では苦労せずにキャラクターを作っていけたと思います。

—『桜花忍法帖』は、非常に特徴的な名前を持つ登場人物も多いですね。
山田自分でもどうしてこんな名前が考えついたのかと思います。「孔雀啄」とか「色衰逸馬」は気に入っている名前ですが、どちらもポンと浮かんできたと思います。「涅哩底王」は中国語の本を見ながらひねり出してつけた覚えがありますね。名前を考えるのは楽しかったです。

—忍術のアイデアはどのようなところから生まれたのでしょうか?
山田動物の図鑑などをいろいろ見ながら考えました。山田風太郎さんも人体生理学みたいなものを参考にしていらっしゃるようですが、当時は具体的だった科学が現代ではすごく抽象的になっているので、忍法にあてはめても読む側が理解できないものになってしまいます。なので、わかりやすいものになるよう一生懸命考えました。

—ご自身の中でいいアイデアだと感じている忍術はありますか?
山田孔雀啄の、時間を遡らせる術「時逆鉾」が好きですね。昔、僕と山田風太郎さんが同時期に発表した小説で、偶然どちらにも異次元への橋渡しをするような忍術が登場していました。そのとき「ここまでファンタジックに書いても大丈夫なんだな」ということがわかりましたし、ようやく山田さんのアイデアに追いつけた気がしました。

—アニメ化が決まったとき、製作側から「こういうところを変えたいんですが」というような相談はありましたか?
山田何もなかったと思います。僕からは「もし変更したい部分があったとしてもお任せします」とお伝えしました。

—シナリオを読まれてみていかがでしたか?
山田アニメに限らず、いただいたシナリオは映像を思い浮かべながら読むので、自分の作品であっても自分と切り離された感覚で受け止めるのですが、素直に楽しませていただきました。

—映像になった忍術をご覧になった感想は?
山田小説だと、何が起きているのか、その全てを書かなくても煙に巻くことができます。なので、「何かが起こっているんだろう」と思わせられるのですが、アニメではそれを全て絵にしないといけないので大変ですよね。ですが、そういった部分も自然に描かれていたので、楽しんで見ていました。それから、映像だとこれだけテンポを速くできるのかというところはすごく刺激になりましたね。いつも、テンポを速くしたいと考えているのですが、なかなかうまく実現できないので。実は、まとめて見たいと思っているので、まだ1、2話しか見ていないんです。ブルーレイで全話見るのが楽しみです。

—ご自身の中では『桜花忍法帖』に続くお話というのは意識されていますか?
山田『桜花忍法帖』の続編というものは書けないと思っています。なので、もし次のお話を書くとしたら、時代を戻して前日談でしょう。信長による伊賀攻めの歴史はやはり面白いですし、『甲賀忍法帖』で描かれなかった弦之介や朧たちの親世代が書けば、また違う忍法帖を生み出すことができます。登場人物を親戚や隣に住んでいるおじさんみたいな人たちまで広げるかもしれません。

—そのときにはまた新たに名前や忍術を考えることもあるでしょうね。
山田そうですね。そのときは、忍術はもう少し素朴でリアルなものになると思います。それから、伊賀と甲賀の戦いについては、ディフェンスとオフェンスのポジションがしっかりと分かれた集団戦でありながら個人戦でもある、そんなサッカーのような試合をイメージ書ける気がしています。

—頭の中にある豊富なアイデアが形になる日を楽しみにしています。最後に、これから原作小説を読むというアニメの視聴者に向けてメッセージをお願いします。
山田僕は山田風太郎さんをとてもリスペクトしていますし、最大のファンの一人だと思っているんです。その尊敬の念が『桜花忍法帖』から少しでも感じていただければ嬉しいですし、続編を書かせていただけた幸せ感込みで読者の方も一緒に楽しんでもらえればと思います。

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